
香川は3年に一度開催される瀬戸内国際芸術祭で大にぎわい!
県内各地のアート作品を眺めるうちもっとアートに触れたいと思われた方へ、昨年末逝去された建築家・谷口吉生氏の遺作であるとっておきの美術館を2つ紹介します。
谷口吉生氏(旭日中綬章、文化功労者)は1937年東京府(現在の東京都)に生まれ、ハーバード大学でモダニズム、丹下健三のもとで都市的なスケール感を学ぶ。妥協を許さない細部の精巧なデザインを追求し、厳選されたプロジェクトに注力されました。
金沢市立玉川図書館(1978年)や法隆寺宝物館(1999年)、ニューヨーク近代美術館(2004年)などを手掛け、特にミュージアム建築の名手として知られています。2024年末、87歳で逝去。
今回は(公社)香川県観光協会によるプレスツアーの一部に参加して取材を行いましたので、最新の現地情報とともにご覧ください!
丸亀市猪熊弦一郎現代美術館(MIMOCA)

JR丸亀駅に隣接する猪熊弦一郎現代美術館(愛称:MIMOCA)は、丸亀市の市制90周年記念事業として、同市ゆかりの画家・猪熊弦一郎氏の協力のもと、1991年11月23日に開館しました。
まるで額縁のような建物正面のデザイン。その額縁にすっぽりと収まる巨大なオブジェや壁画が道行く人々をつい立ち止まらせるほどです。そして、この壁画をよく見ると、ペイントされてものではなく、原画をもとに、大理石の中に黒い石を精密にはめ込む象嵌(ぞうがん)と呼ばれる手法で造られていることがわかります。特に大理石の継ぎ目の精巧さなんて驚きでしかない。これはいきなりすごい!

美術館の正面左側は無料スペースとなっていて、大階段を上がるとカフェもあるそうなので、後で立ち寄ってみることにします。

ちなみに前後しますが、写真に写っている二階の空中ブリッジから見た大階段と周辺スペースの様子がこちら。

時間帯によってはソリッドな光と影が映り込み、それ自体もアート作品のように見えるから不思議です。実はこの光と影が個人的には一番印象的だったのは内緒の話です(笑)

常設展の観覧料は大人300円、大学生200円(高校生以下または18歳未満は無料)。天井を低く抑えたエントランスを抜けると、垂直に伸びる吹き抜けが開放感を誘います。

つい視線は明るい方に向くものですが、天井から差し込む光が自然に上階へ導くようで、とても洗練された意匠だと思います。

二階に上がる階段の途中からの眺め。こういう立体的な造りって創造力をかき立てられませんか? 絵画などのアート作品を見る前に、こうしてアート脳へ知らず知らずのうちに変換させられているのかもしれませんね。そこまで計算されているとしたら天才としか言いようがない!
建築家の谷口吉生氏と猪熊弦一郎氏との対話によって、アーティストと建築家の理念が細部に至るまで具現された建築となっているそう。

二階の展示室には猪熊弦一郎氏の作品を展示。同美術館には猪熊弦一郎氏本人から寄贈を受けた約2万点の作品を所蔵し、常設展で紹介するとともに、現代美術を中心とした企画展も開催されているとのこと。


私事で恐縮ですが、実は幼少の頃から絵を描くのが好きで、高校を卒業するまで美術の評点だけは4~5をずっと取っていました(他の教科は散々でしたが…)。多分、人とはちょっと違った変態的な感覚があるのだろうと思っているのですが、こういう抽象的な作品を見るといろんな情景がシャッフルするように次々と頭に浮かんでくるので、それがすごく心地いいのです。皆さんはどう感じるでしょうか? ぜひリアルに体験してみてください。
ちなみに今回アテンドいただいた副館長さんに、特に猪熊弦一郎らしい作品はどれかとお聞きしたところ、少し悩まれて選んでいただいたのがこちらの作品です。Landscape BY(1972年)。

真っ青な下地に黒の模様が街にも列車にも見え、単純なようで複雑な、見る人によっていろんなイメージを与える作品だと思いました。取材なのであまりじっくりと見れなかったのですが、また別の機会にずっと眺めてみたい。多分、20~30分は動かない自信があります(笑)
猪熊弦一郎氏の自画像画も展示されていました。イケメン?

さらに、丸亀市猪熊弦一郎現代美術館では2025年11月24日まで、大竹伸朗展「網膜」が開催されています。観覧料は常設展込みで大人1,500円、大学生1,000円、高校生以下または18歳未満は無料。


大竹伸朗氏は1955年東京都生まれ。東京国立近代美術館をはじめ、愛媛県美術館、熊本市現代美術館、広島市現代美術館など各地で個展を開催、香川県内では直島、豊島、女木島(瀬戸芸会期中)でも作品を公開されています。
今回展示される「網膜」シリーズは、1988年に制作の拠点を移した宇和島のアトリエで着想され、1990年代初頭まで集中的に制作された後も、他のシリーズへ展開しながらも制作が続けられてきたそう。その手法は、廃棄された露光テスト用のポラロイドフィルムに残された光の痕跡を大きく引き伸ばし、その表面に透明の絵の具としてウレタン樹脂を塗布するというもの。遠くからは平面に見える作品が、近くで見ると立体的に作られていることが分かるというちょっと不思議な作品群です。


作品の元となったポラロイドフィルムも展示されていました。確かにこれはイマジネーションをかき立てられるけど、それを大きなアートにするという発想は凡人にはなかなか出ないと思いました。

大竹氏の作品を見ていると、アートってもっと自由でいいと言われているようで、アートに限らず何かを表現する職業の人にはかなり刺激を受けるんじゃないかと思います。11月24日までなのでお見逃しなく!

三階にはオシャレなカフェもあるので、余韻を楽しむのに打ってつけでした。


丸亀市猪熊弦一郎現代美術館(MIMOCA)
丸亀市浜町80-1
TEL 0877-24-7755
10:00~18:00(入館は17:30まで)
月曜日休館(祝日の場合は翌日休館)、年末(12/25~12/31休館)
香川県立東山魁夷せとうち美術館

瀬戸大橋記念公園に隣接する東山魁夷せとうち美術館は、東山魁夷氏の死後、遺族より香川県へ270点余りの版画作品の寄贈を受け、2005年4月に開館しました。
その建物は二枚の大きな壁が東西に貫いており、瀬戸内側と公園側がこの壁によって隔絶されているところに大きな特徴があります。あえて正面からは瀬戸内海が見えない造りになっているのでしょう。入館料は大学生を含む一般400円で、高校生以下は無料(特別展の場合は展覧会ごとに設定)。
館内には所蔵作品の中からその時々のテーマに合わせて作品を展示、現在は秋の特別展として東山魁夷の「窓」が11月3日までの日程で展示されています。
※許可を得て撮影しています。本来は館内撮影禁止です。


一階にはひと際大きな「窓(長野県立美術館所蔵)」をはじめ、「エルシノアの街(当館所蔵)」、「晩鐘 フライブルク(川端康成記念会所蔵)」など、街や建物といった作品が並びます。
建物などは背景も入れて全体像を表現しがちなのですが、あえて寄りで描いたような表現が多いことにその独特な世界観を感じました。彩色も、その建物や街のリアルな色でなく、その包み込む雰囲気までも表したかのように強調されているような印象を受けました。
階段を上がって二階に行くと、これまでとは打って変わって広がり感のある風景画が並びます。

ここでは、緑と碧の中の白馬が印象的な「緑の詩(当館所蔵)」や、月が美しい「静夜(瀬戸内市立美術館所蔵)」、「月映(当館所蔵)」など、幻想的な作品が多い印象。ずっと眺めていると、心の中まで静寂で落ち着いた感覚になります。
絵画を見ると、普段頭の中で眠っている部分が刺激されるようでいいですね。今度またゆっくり来ようと思いました。

そして、建物の正面から瀬戸内海がほとんど見えない造りになっている理由がここで回収されます。ラウンジから眺めるこの景色!

今回のツアーは東京から出版社さんたちが多く参加されていたのですが、この景色を見て皆さん感動されている様子でした。
この絶景のラウンジはカフェになっていて、カフェのみの利用だと入館料なしで入ることができます。

香川県立東山魁夷せとうち美術館
坂出市沙弥島字南通224-13
TEL 0877-44-1333
9:00~17:00(入館は16:30まで)
月曜日休館(祝日の場合は翌日休館)、年末年始(12/27~1/1休館)
以上、香川県にある谷口吉生建築の中から猪熊弦一郎現代美術館と東山魁夷せとうち美術館をご紹介しました。
なお、瀬戸内国際芸術祭2025秋会期に合わせて、一般向けに県内の丹下健三、大江宏、谷口吉生、山本忠司といった建築家の名作を日帰りで効率よく巡るツアーも行われます。ガイドや現地キュレーターからの解説もあるので、より詳しく各建築物のことが分かる垂涎のツアーのようなので、ご興味のある方はぜひどうぞ!
⇒ 香川アート探訪「西コース」
ちなみに、こちらのコースのランチに立ち寄るフレンチ精進料理「ル ペイザン」さんは以前別件で撮影に伺った事があるのですが、これぞまさしくアートと呼びたくなるようなオシャレなランチでしたよ~! ツアーではどの料理になるか分かりませんが…

おしまい。
