とっくの昔に年功序列制は崩壊し、今や社会人としての知識やスキル、コミュニティー力など、個人の能力によって社会的地位や収入などが決まってくる時代となりました。
また一方で、自分らしさを基準とした生き方、働き方を重視する動きもあり、いずれにしてもそれらを実現するための「学び直し」や「リスキリング」に取り組む社会人が増えているそうです。
ただ、学び直しをしたいと思いつつも、仕事や家庭との両立の難しさや今更感などもあって、今一歩、行動に踏み出せないといった人も多くいると思います。
今回は、そんな悩みを抱えつつも社会人として大学院に通う現役の院生たちのリアルを語ってもらおうと、香川大学の学長を交えた座談会的なイベントが開催されました。大学院での学び直しをお考えの人に参考になればと思いますので、ぜひご覧ください。
「妻の反対もあったけど今は応援してくれています!」社会人大学院生4人のリアルを話し合う、学長を交えた座談会
今回参加されたのは「香川大学大学院 創発科学研究科」で学ぶ4人の社会人大学院生たち。
彼らが学ぶ創発科学研究科は、これまでの工学、経済学、法学、教育学だけでは賄えなかった部分、それぞれの強みをうまく融合させて日々複雑化する課題の解決に資することを目的としており、予期しない異分野の融合によって、新たな知見と創造につながる教育・研究を目指しています。創発科学研究科博士前期課程では教育学、法学、経済学、工学、危機管理学又は学術の6つの学位が取得できます。特に危機管理学については全国的にも大変珍しく、香川大学の大学院が選ばれるひとつの理由となっています。
まずは座談会の開催にあたって、香川大学学長・上田夏生さんよりご挨拶がありました。
上田学長「香川大学大学院には5つの研究科があり、現在800名近くの学生が学んでいます。
本学では、これまでも大学院における社会人の学びを支援してまいりました。特に専門職大学院である地域マネジメント研究科や教育学研究科では、働きながら学ぶ社会人の方々が数多く在籍しており、その比率は60%から80%に達しています。
その一方で、新たな分離融合の教育研究を目指して2022年には創発科学研究科修士課程を、さらには2024年に同博士課程を新たに設置いたしました。専門職大学院以外の研究科でも社会人の学びの場をより広げるべく、大学全体としてさらに積極的な姿勢で臨んでいるところです。
本日の座談会では社会人と大学院の新たな可能性について意見交換を行い、多くの示唆が得られることを期待しています。」
それではここからは忌憚なく大学院生の皆さんに語っていただきましょう。まずはプロフィールも紹介しつつ、最初の質問です。
※多少読みにくさはあると思いますが、皆さんの発言を尊重し、そのまま文字に起こしています。
大学院入学を決断した理由は?
山本さん「私は税理士になりたいという夢もありましたので、その夢を叶えるために、税理士試験の一部免除がある香川大学の大学院に進学しようと決めました。」
友時さん「私は(当時の時勢などにより学問ができなかった)50年前の夢を今叶えること。あと3年また次は創発(科学研究科)の方で危機管理を学びたい、死ぬまで勉強したいと思っていますので、その場を与えていただくために受けさせていただきました。」
入学前に悩んだことなどありますか?
古島さん「香川大学大学院の創発科学研究科ができた時に1年悩みました。社会人でもあって自分の仕事もしていて、今の自分の担当業務とかそういったものをちょっと自分の中で整理しようかなという機会を1年もらって、翌年、創発科学研究科ができて2年目にやっぱり受けたいなと思いました。自分の悩みっていうのを悩まないで、とりあえず進もうという一歩を踏み出したような形で行動させていただきました。」
中村さん「私も元々教育学部(出身)というところもあって工学系の分野に進むという事に関してちょっとハードルをすごく高く感じていた部分もあったんですが、事前に通っていた先輩であったりとか今指導教員していただいている八重樫先生にもいろいろお話を伺いまして、ぜひお願いしたいというようなことで(入学しました)。入る前にそういった悩みをできるだけ解決することができて、なんとか今入学して入ってみるとすごく楽しく勉強させていただいていると感じています。」
入学前に周囲の人に相談されましたか?
古島さん「(職場の)皆さんに、迷ってたんだけれども院に行こうかなって思ってるんですけどって言った時に全員が全員いいんじゃないって言ってくれたことが意外なことだったです。」
山本さん「私としては将来税理士になりたいという夢がありましたので、院に進学したいということで妻に相談したところ、最初はちょっと反対のような感じもあったんですが、最終的には全面的に賛成をしてもらいました。その方が将来的に、経済面もそうですけど、いい結論が見えたので賛成してくれたのかなと思います。」
大学院に入学して良かったことは?
友時さん「図書館で資料を全国の大学から取り寄せてもらえる、そういうのが良かったと思います。そういうことで(勉強する)環境が整った。家でやったらできないですから、そういうのは非常に良かったところです。」
中村さん「もともと文系の学部にいましたので、どちらかというと研究室でお話しするにしても同学年であったりとか、限られたコミュニティの中でお話しすることが多かったんですが、それが今回入学した後は研究室の単位っていうのがすごく広がっていて、先輩であったりとか学部生の方だったり。この間も学会の方に出席させていただいたんですけど、そこで企業の方であったりとか、いろんな方とお話できるネットワーキング作りみたいなところであるとか、やっぱりいろんなつながりが広がったっていうところが自分にとってすごく大きな実りだなというふうに感じています。」
不満なところはありますか?
友時さん「私は国会図書館に行きましたし大阪の府立図書館にも行きました。(香川大学の図書館は)やっぱり探すもの(調べたいもの)がないのが多いんですよ。それと検索して全国の大学でいっぱいあるのになんでうちだけないのか。それとか研究室にあるけどそれは貸し出しできませんと。それでやむなくよその大学から一週間かけて取り寄せてもらうとか…。だからそういう意味で、我々(創造)工学部の分館にある文献というとどうしても概念的な認知学とか心理学とかですね、そういう方の文献ってないんですよ。こっちの幸町(キャンパス)の図書館でもないものが多い。結構かなりメジャーな、有名な本であってもないと。来年度の予算で取るから書いて出しといてくださいとかね。それじゃ間に合わないですよね。」
古島さん「今の点で私が思ったことなんですけども、結構その課題っていうのは全国の大学院生が持っている共通の課題じゃないかなってちょっと思ったんです。私たち学生として勉強するときに得たい情報とか論文や人の考えとか、研究の内容とかを、この人のものを見たいというのは、確かに気持ちとして分かります。」
山本さん「(授業が)中には日中に、通常一般の社会人が業務をしているであろう時間帯に開講されている科目というのもあって。去年はこうだったけど今年はこうなったということで、いろいろとその日に1日だけ休みが取れれば2つの科目が受けられたりとか、調整をいろいろとしていただいているとは思うんですけれども、やっぱりその時間に来て講義を受けないといけないという科目も中にはあって…、そういう点が全てオンラインでは解決する。オンラインはオンラインでいいところがあって、集合形式でリアルタイムに授業を受けるのもいいところはあるので、その調整というのはなかなか難しいんだろうなとは思いつつも、やはり休みを取って行かないといけないというのは一つハードルとしてあります。」
創発科学研究科の文理融合を感じたエピソードは?
中村さん「教育コンテンツを作りましょうというようなグループワークを行ったのですが、その時に私は教育学部だったというところで、こういう風な教育が今行われているというようなところにすごく関心があって、工学系の子たちはすごくプログラミングとかができる子たちだったので、そういった観点から、じゃあそれだったらこういうコンテンツ作れるよねみたいな話がすごくできて…。授業自体はそれで終わったんですけど、そこから先もまたみんなでいろいろやりたいねって話でビジコン(ビジネスコンテスト)に応募してみたりとか、いろんなその発展性を持ってそこまで学んでいけたのは、やっぱりいろんな分野の方が合わさって、いろんな融合によってそういった発展的な学びにつながったのかなというふうに考えています。」
お話を聞いていると、やはりそれぞれに悩みもあり、迷った部分もあったけど概ね大学院に入って良かったという結論でしょうか。では最後に…
大学院入学に悩まれている人にひと言!
古島さん「人の学びっていうのは何歳になっても絶対遅いことはない。やはり自分が学びたいなと思った時にエイヤー!と一歩踏み出すっていうのが大事だし、そうやって行動を取ることで自分の人生が豊かになっていく一歩に近づいていくんだろうなというのは思います。」
友時さん「企業にいてですね、だいたい50歳で管理職として残る者と、ふるいにかけられる者がいるわけです。そうすると50歳から60歳まで、60歳から再雇用になるそれまでに大学で勉強したい人は、どうぞいらっしゃいと、そこでエキスパートになって、ドクターを取って再度自分をもうひと花咲かせたいと思うんです、というようなことでですね、勉強したい人もかなりいると思うんですよ。」
山本さん「考えているんだったらやってみて。やってみて私の場合はすごいよかったことが圧倒的に多かったので、迷っている方にはすぐ入学されることを勧めたいと思います。」
仕事や家庭との両立に悩んだり、今の自分に合う研究科が分からなかったり、そういった悩みに対して相談にのってもらえる香川大学リキャリスキル教学センターもあります。
「学び直し」や「リスキリング」に興味のある方! せっかく学ぶなら大学院で学んで修士や博士を取得する選択肢もアリかもしれませんよ!
今回お邪魔した座談会の内容がまとめられた動画もできたそうです。ぜひ一度ご覧になってみてください。
取材協力 = 香川大学リキャリスキル教学センター