
厚生労働省の調査によると、大卒3年以内の離職率は2022年度卒で33.8%で、過去数年を見ても多少上下はあるにしても同じような高い水準で推移しています。また、近年では終身雇用という概念が労使ともに希薄となり、転職や独立開業といった新たなライフステージを選択する人が増えていると言います。
そんな中、学び直しのひとつとして一生ものの手に職が付く職業が注目されています。
今回は、そんな職業のひとつ、歯科技工士についてそのリアルをお聞きしてきました。社会人になってみたもののイマイチ充実感がない、子育てと両立できる職業を探している、医療やものづくりに興味がある… という人はぜひ参考になさってください!
人手不足だから従事者にとってはチャンス!将来的には独立も可能な歯科技工士
まず歯科技工士について簡単に説明すると、歯科医師の指示をもとに、入れ歯や差し歯、被せ物などを作る専門職で、患者さん一人ひとりの口の状態に合わせて、噛みやすさや見た目を考えながら、細かく正確な作業を行います。直接治療は行いませんが、歯科医療を支えるものづくりのプロとして重要な役割を担っています。
今回は歯科技工士であり専門学校の教員である尾幡さんに歯科技工士のリアルをお聞きしました。

ーー尾幡さんが歯科技工士になろうと思ったきっかけは何ですか?
尾幡さん「もともとものづくりや手を動かすことが好きで、それを活かしたいと思っていました。接客業やコミュニケーションは自分には向かないと感じていたため、ものづくりでしかも医療系という事に魅力を感じ、親から歯科技工士の仕事を紹介されて、すんなり決めました。」
ーーちなみに、歯科技工士になるためにはどうすればよいのですか?
尾幡さん「高校卒業後に大学か専門学校、短大で歯科技工士の国家試験受験資格を得るための課程(2年)を修了し、国家試験に合格する必要があります。」
ーー国家資格に合格したとして、すぐに歯科技工士として就職できるものなのでしょうか?
尾幡さん「歯科技工士の約30%は歯科医院で働き、残りの70%は歯科技工所と呼ばれる歯科技工士が集まる会社で勤務しています。実は香川県には大手と呼ばれる歯科技工所が3つもあって、これはかなり珍しいのです。全国シェアナンバーワンの大手さん発祥の地が香川というのもあるのかもしれませんね。ちなみに人手不足の昨今ですから就職率はほぼ100%です。」
ーーなんと、それって香川は歯科技工士にとって天国みたいな環境じゃないですか! ちなみに独立開業などもできるのでしょうか?
尾幡さん「先ほど大手の話をしましたが、実は歯科技工所の75%ほどは個人事業主ですので、独立志向の人も多いと思います。」
保健診療だけだと大変だとは言いますが、一方で自由診療の分野であるインプラントや美容系などでは努力次第で大きく伸ばす事も可能。海外ではアートの要素も注目されつつあり、技術の発達とともに今後も夢が広がる職業なんだそうです。

ーー歯科技工士として、仕事のやりがいはどのようなものですか?
尾幡さん「私も最初は歯科技工所で働いていたのですが、はじめの喜びというのが、入れ歯を作っている途中… あれはレジンというプラスチックなのですが、ピンク色の状態から石膏に埋めてその空洞に餅状になったレジンを打ち込むんですけど、その出来上がった時ってものすごくザラザラなんですよね。ザラザラで気泡だらけでトゲがあったりという状態からツルッツルのピカピカに磨いていくっていう。駆け出しの頃はその過程を傷ひとつない状態で、ピカピカに光らせるというところにやりがいと喜びを感じていました。光っていく途中で思わずこちらが笑顔がこぼれるぐらい(笑)」
いや、めっちゃマニアックやけど、ものづくりの楽しさって案外そういうところにあったりしますよね。なんかその感覚分かる~っ!
尾幡さん「それと、高校時代、バスケットボール中の事故で歯を失い、強い絶望を感じていた同級生がいたのですが、後に歯がきれいに治り、笑顔を取り戻している姿を見ました。当時は『治った』という結果しか意識していませんでしたが、大人になって歯科技工士になってから、その裏で歯科技工士が若者の笑顔と人生を支えていたことに気づき、大きなやりがいを感じるようになりました。
また、技工士として働いていた時、年末に急ぎで入れ歯を作った患者さんから、新年を家族と笑顔で迎えた写真が送られてきたことがありました。その写真を通して、『食べる・笑う・家族と過ごす』といった日常の喜びを支えられたと実感しました。
歯が欠けたり失われると、人は思い切り笑えなくなります。歯科技工士の仕事は、歯を作るだけでなく、人の笑顔と前向きな気持ちを取り戻す仕事なのだと感じています。」

ーーちなみに、歯科技工士さんあるあるって何かありますか? 例えば合コンに行ったら相手の顔より先につい前歯を見てしまうとか?(笑)
尾幡さん「合コンはともかく(笑)歯科関係者には反射的に歯を見てしまうというのはあるんじゃないですかね。テレビなどでも、芸能人の方がしばらく見ないうちに、ちょっと前歯がきれいになってたりしたら、『あれ?治したな…』とか(笑)」
ーーわっ、歯科関係者の前では歯を見せて笑えないじゃないてすか(笑)。他には?
尾幡さん「あと、人それぞれ好きな歯の部位がある(笑)。私だったら、下の歯の第一大臼歯が好きです。歯科技工士において、上の歯の第一大臼歯と2強を争う感覚です。噛むための機能性も第一大臼歯は素晴らしいんですが、見た目もかっこいいです。第一大臼歯は将棋でいうと、飛車と角ぐらい重要で、なくなるとすごく不安になる存在で…」
もう、マニアックすぎてついて行けないので以下、割愛(笑)
尾幡さん「歯の噛む面のことを咬合面と呼ぶのですが、この咬合面の溝の入り方や、隆起に人それぞれ個性があり、真っ平らな方もいれば、モリモリ、ウネウネしてる方もいます。歯科技工士業界ではモリモリ、ウネウネな咬合面が人気で、この歯に出会うと各自、モリモリ、ウネウネした歯を全力で再現しにいきます(笑)」
歯科技工士さんの間では「モリモリ、ウネウネ」が人気のようです。って、知らんがな!(爆笑)

ーー歯科技工士のリアルがちょっと横道にそれてしまいましたが、どんな人が向いていると思いますか? コミュ症とかだと厳しい?
尾幡さん「 技術が中心の仕事ですが、ある程度のコミュニケーション能力はあるに越したことはないと思います。医師との情報交換やオーダーに対する調整などもあるので、まったく人と関わることがないというわけではありません。ただ、陽気な方々が大半を占める業界でもないので、ある一定ライン以上のやり取りができたら普通に仕事としてはできるんじゃないかなって思います。」
ーー男女比や女性にとっての魅力はどのような状況ですか?
尾幡さん「現在働いている歯科技工士は男性80%、女性20%という感じでしょうか。私の勤める専門学校の入学者は2016年以降女性が過半数を超え増加傾向ですね。女性にとってはデジタル化による効率化や育休制度の充実など、働きやすい環境が増えており、職業として魅力を感じているようです。」
3DプリンターやAIなどの導入も進み、女性にとっても働きやすい環境になりつつあるのだとか。

ーー歯科技工士の職場や業界の雰囲気はどのようなものですか?
尾幡さん「昔は男性中心の理系職のイメージでしたが、最近は女性やおしゃれに気を使う学生も増え、全体として雰囲気が変わってきています。技術職としての根気も求められますが、専門性とチームワークのバランスがとっても良い雰囲気だと感じています。」
ーー最近は社会人から歯科技工士へ転職される方も増えていると聞きますが?
尾幡さん「はい。特に30代で転職希望者が増加しているように思います。以前の仕事に満足できず将来に不安を感じ、専門技術を身に付けたいと考える人が多いと思われます。また、社会人の女性も増え、とても真剣に取り組まれています。最近では40代の学生がいましたが、卒業後の職場でもうまく馴染んでいるようです。職場に年上の後輩が入ってきて扱いにくいというのはあるかもしれませんが、それはどこの業界でも同じですしね。」
ーー先ほどつい香川は歯科技工士天国やん!と口走ってしまいましたが、香川県は歯科技工士を志す人にどんな魅力がありそうですか?
尾幡さん「就職がしやすく、独立開業の生活コストも低い。都会に比較的近く移動も便利で住みやすい環境が整っている。働き方改革も進み、学生や社会人問わず選ばれている地域ではないでしょうか。」
これは香川に移住を考えている人にとっては、背中を押されるかもしれませんね。
ーー最後に、歯科技工士の将来性についてどう思われますか?
尾幡さん「今後いろんな業種がAIに取って代わられると言われますが、歯科技工士は今後もなくなることはないと考えられています。技術やITの導入で効率化は進みますが、人の手と判断が必ず必要な職種であるため、今後も安定した職業であると思います。」

歯並びの悪い私は前歯を気にしながらのインタビューだったのですが、お話を聞くうちに中学生の頃の自分に聞かせてあげてたら、もしかすると人生が変わっていたのかな? と、ふと感じました。実はプラモデルやジオラマ作りの没入感が好きで、当時は「ものづくり」なんて言葉は聞かなかったのですが、模型などが作れる仕事がしたいな… なんておぼろげに思っていたものです。高校生になってからはチャラくなりましたが…(笑)
そういった没入感が心地よいって方には打ってつけの職業ですし、医療系は食いっぱぐれがない職業だと言われているので、将来的な安定を求める人にも最適。結婚したら、子どもが生まれてからの働き方も気になると思いますが、歯科技工士は在宅フリーランス的な働き方もできるし、リモートでうまくこなせば地方に住むことも可能。
人手不足と言われている業種には、働き方も含めて様々なチャンスがありますので、人生や進路に悩まれている方は歯科技工士という職業も選択肢の一つに入れてもいいのかなと思います。
さらに歯科技工士のリアルや専門学校での学生生活などを知りたい方は、尾幡先生のInstagram(@dental_technician_oba)またはYouTubeチャンネルをぜひご覧ください。
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