高松空港の入り口にどーんと鎮座するピラミッドのような巨大な石造りのアート作品。高松空港をよく利用する人なら「あれっ? 最近なんか綺麗になってない?」と気づかれた人もいるかもしれません。
最近、ジェット洗浄で美しく蘇ったこのアート作品。実はあの世界的に知られる彫刻家、イサム・ノグチ氏の作品なのです。
この作品は、晩年に牟礼町にアトリエを構え、讃岐の自然と石をこよなく愛したイサム・ノグチ氏(1904 – 1988)が、高松空港開港の記念に制作された「TIME AND SPACE」という作品です。氏の長年にわたる様々なジャンルの創作活動の中でも最後のものとなり、遺作となった作品なんだそう。
今回はイサム・ノグチ氏の遺作となった「TIME AND SPACE」の魅力を多くの人に知ってもらおうと、建築家の林 幸稔さんを講師に迎え、高松空港で「高松空港開港35周年記念プロジェクト TIME AND SPACE 魅力再発見 トークイベント」が行われました。
林さんはイサム・ノグチ氏の作品や活動に造詣が深く、イサム・ノグチ氏の生い立ちや戦後の日本での活動、牟礼町での制作活動など、様々なエピソードも交え、面白おかしく語っていただきました。
作品ひとつひとつへの思い入れもかなりのもので、時間が来ても話足りずに「最後にひとつだけ!」と熱く語られる姿に参加者の皆さんも熱心に耳を傾けていました。
トークイベントの後は、講師の林 幸稔さんとともに参加者の皆さんと実際に「TIME AND SPACE」を見にでかけました。
実はこの「TIME AND SPACE」はイサム・ノグチ氏が亡くなった翌年に完成したもので、氏がその雄姿を見ることはなかったといいます。イサム・ノグチ氏の制作パートナーである牟礼町の石彫家・和泉正敏氏がその遺志を受け継ぎ完成させたそうです。
通常、西洋の彫刻は石のすべてを削るそうですが、イサム・ノグチ氏は自然の岩肌の美しさを残しつつ手を入れることで、調和を生み出す作風に次第に変わっていったといいます。最後は自然の石を組み合わせるという作風に行きついたそうで、まさにこの「TIME AND SPACE」がその作風の集大成ではないかと感じました。
「TIME AND SPACE」の前にはイサム・ノグチ氏の直筆の文書から起こした石碑もありました。この作品の銘については元々は制作依頼者である香川県に一任されていたそうですが、イサム・ノグチ氏の芸術を永久に顕彰するため、氏が制作意図を説明した言葉から引用されたとのこと。
普段何気なく通り過ぎているモニュメントにもこんなストーリーがあったなんて感動ものです。高松空港へ行かれる際は、このイサム・ノグチ氏の遺作「TIME AND SPACE」に思いを馳せてみてはいかがでしょうか。