親しくしていただいているツルキャラうどん脳の事務局さんとの何気ない雑談から始まった企画「うどん脳とツル巡り!」。
その3玉目となる取材にお邪魔したのが、多度津町にある「いけこうどん」さんでした。
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兵庫県出身の僕は、同じ関西である大阪から移住してきたという同郷の親しみと、さらに元々は蕎麦職人だったという店主の経歴にすごく興味を覚えました。
ただ、「うどん脳とツル巡り!」は1日に3~4店巡るというハードなスケジュール。また、シリーズものは記事のテイストもある程度統一しないといけないという縛りの中、実はあまりそこいらのお話しを聞くことができなかったんですね。
という事で、今回は日を改めて、なぜ蕎麦職人からうどんの世界に転身したのか、実際うどん店を開業してみてどうだったのか、こだわりや経営者としてのリアルな思いなどについてもお聞きしてきました。
元々は大阪で蕎麦屋をオープンしたかった。
今回はじっくりお話を聞こうと閉店後の時間にお店に訪れると、「こんにちは~」と関西弁のイントネーションで店主の池尻さんが笑顔で出迎えてくれました。やっぱ、関西弁っていいよな~っ。
マスクを取るとなかなかのイケメンでございます。
軽くお互い関西弁で挨拶と雑談のあと、さっそく一番気になる点からお聞きしてみました。
ーー先日お邪魔した際に元々は関西の蕎麦職人さんだったとお聞きしたのですが、なぜこの地でうどん店をはじめられたのですか?
池尻さん「はい、僕は大阪生まれの大阪育ち。以前はずっと大阪梅田の割烹蕎麦屋で修業していました。本当は独立して蕎麦屋をやりたくて、ただ蕎麦だけだと差別化できないのでプラスアルファで何かないかな… と思っていたんです。そんな時、妻が香川出身という事もあって香川のうどんを食べ歩いて衝撃を受けました。蕎麦だけじゃなくうどんもアリかなと(笑)」
梅田の割烹蕎麦屋さんと言えば、その世界では頂点と言ってもいい高級店。修行をするには最高の環境だけど、実際に自分がお店を出す時にはもっと庶民的で、毎日食べに来たくなる普段使いの店が理想だったと言います。
池尻さん「香川のうどん屋さんを回ってみて『こんなお店がやりたい』と思いましたね。それと、うどんの魅力にハマってしまって、香川で本格的に修行をしたいと思いました。」
それでもまだその当時はお店を出すなら大阪と思っていたんだそう。
池尻さん「最初は1~2年修行した後、大阪に戻って蕎麦とうどんのお店を開こうかと思っていたんです。それがどんどん讃岐うどんの奥の深さにハマってしまって、別のお店でも修行したいと思いました。次は機械打ちじゃなく、足で生地を踏むような本格的な手作りのお店にお願いして修行させてもらいました。」
転機が訪れたのが香川に移住して10年目、当時修行していたお店が閉店すると聞き一瞬大阪に戻ろうかとも思ったそうですが、やはり本場の香川で勝負したいと一念発起し、2020年6月、多度津の地で「いけこうどん」をオープンさせました。
池尻さん「本場の香川で通用したら、大阪でも多分いけるでしょう?」
と、本気か冗談か分からない笑みを浮かべながら遠くを見つめていました(笑)
こだわりは固すぎない麺。蕎麦職人の経験をうまく讃岐うどんに生かしたい!
ーーその修行の末完成した「いけこ」のうどんですが、先日いただいた時になんとなく関西っぽいなと思ったのですが、池尻さんのうどんに対するこだわりはどんなところですか?
池尻さん「なかなか言葉では伝えられないので、実際に麺を作るところを見てみますか?」
そうして厨房に案内されると、おもむろに玉になったうどん生地を足で踏みだす。あまりいい靴下履いてないので…と恥ずかしがられるので写真は撮らずに観察しましたが、リズミカルな足取り(?)は熟練の動きです。
そして、練りあがった生地を手で延ばし、さらに綿棒で延ばしていきます。
麺のこだわりは、独自の小麦粉のブレンドと、3.7ミリと4.2ミリという微妙に太さを変えた2種類の混合麺。これにより、コシとのど越しの良さが出てくるのだとか。
麺を切る機械の歯は特注品で、もうこれを作る職人さんがいないのだそう。
最初は手切りにもこだわっていたそうですが、お客さんが増えると追いつかなくなって現在は機械に頼っているそうです。
池尻さん「こだわりたい部分なのですが、お客さんをお待たせするわけにはいきませんからね。辛いところです…」
そして、打った麺は大鍋で一気に茹でます。
茹でた後は水で締めますが、ここにも池尻さんのこだわりが。
池尻さん「うちは氷水は使わないんです。冷たすぎる水は麺が堅くなりすぎてしまって、僕の好みじゃなくなるんです。」
讃岐うどんには、いわゆる剛麺と言ってコシの強すぎる堅い麺も人気なのですが、池尻さんの作りたい麺はそれとは違うと言います。
この感覚は僕にも分かるのですが、生まれてから柔らかいうどんの麺で育ってきた関西人には、時に讃岐うどんのコシが「堅い」と思ってしまう事があります。
このあたりは、それこそ好みの問題なので良い悪いじゃないのですが、讃岐うどん特有のコシは残しつつ、ほど良い柔らかさも兼ね備えた池尻さんの「好みの麺」は、僕にとっても美味しい麺だと思います。
そして、「いけこうどん」さんと言えば、この鴨!!
この鴨を目当てに遠方からわざわざやってくるお客さんもいるほど大人気なのですが、わざわざ僕のために取り置きしてくださってました。めっちゃ嬉しい!
この鴨のパサパサになってないしっとりとした火の通し方は、まさに割烹蕎麦職人の技。企業秘密だと思うので詳しくは書きませんが、鴨肉の選別から調理方法までかなりのこだわりを感じました。ツル巡りの記事で「関西のええとこの鴨なん蕎麦よりおいしい!」と書きましたが、まさにそんな感じでした。
そして、あらためていけこ名物の鴨うどんをいただくと…
ああ~っ、やっぱ好きだわこの味!
麺はほど良くコシがあって、出汁もおいしい。なんとなく関西っぽい味だと思った出汁には、いりこと昆布に、鰹節も入った池尻さんこだわりの味。本場讃岐の味をリスペクトしつつも、個性が感じられる逸品です。
季節やその日の気温などを考え、麺や出汁も多少アレンジしているというその鋭い感性は、蕎麦職人の経験も生きているのでしょう。
この鴨の美味しさを文章に起こす表現力は僕にはありませんので、ぜひ実際に食べて確かめてみてください!
何度も感動する美味しさでした。
まだまだその実力を出し切っていないお店。実はリアルな本音も…
ーー今回も美味しくいただいて満足感に浸ったところでちょっと突っ込んだお話しも聞きたいのですが、お店のオープンが去年の6月との事で1年と5カ月ほど経過しましたが、お店を経営してみていかがですか?
池尻さん「やっぱり、いろんなところで気を遣いますよね。以前雇われ店長だった時代もあったのですが、実際に経営してみるとはるかに大変ですよね。」
特に大変なのは人を使う事だと言います。本当は高級店のようにしっかりと接客教育も行いたいそうですが、どうしても辞められては困るので気を遣ってしまうそうです。また、あえて厳しくやらない事で接客にも人肌を感じる個性が出る事もありそうですよね。
ーー理想とのギャップみたいな事も感じませんか? 当初思い描いていた事がなかなか出来ないみたいな…
池尻さん「ぶっちゃけ、うまく行かない事だらけですよ(笑)」
池尻さん「先ほどもちょっと話した麺にしても効率を考えたらどうしても機械に頼らざろうを得なくなったとか、小麦粉にしても醤油にしても、本当はもっとこだわって良いものを使いたいのですが、コスト的に諦めた事もありますし…」
ーーそこで価格を上げて徹底的にこだわるみたいな事にはならなかったのでしょうか?
池尻さん「正直言うと、他店の価格や香川のうどんの相場から高い値付けで最初から勝負するのは怖かったというのが本音です。それと、やっぱり毎日気軽に食べてもらえる価格にしたいという本来の理想があって、そこも悩みましたね。」
良い食材を使えば美味しくなるのは当たり前。でも、お客さんあっての商売なので、価格とコストをどうバランス良くやっていくのかなのですが、そこは経営者としての腕の見せ所ですよね。
理想と現実のギャップに悩みながらも、その時その時でベストを追求する。お話を聞いていて、むしろその潔さに心を打たれました。
ーー最後に、今後の展望というか、目標みたいなものはありますか?
池尻さん「今は日々悩みながらなのですが、毎日の積み重ねが大事だと思っています。理想を言えばもっと食材にもこだわりたいし、正直言いますといつかはお蕎麦もやりたいとも思っています。ただ、つい儲けに走ってしまいそうになるので、そこはしっかり自分の立ち位置からはブレないようにしたいですね。」
人気店になったとたん儲けに走ってしまって既存のお客さんからがっかりされるという話は僕の耳にもかなり入って来ます。うどん店と言えども経営するからには儲けは出さないといけないし、拡大志向があってもぜんぜん良いと個人的には思います。
ただ、それはお店としての軸がしっかりしている上での話であって、そこをしっかり忘れずに自身の理想を追求する池尻さんの姿に職人としての矜持を感じました。
おしまい。
店名 | いけこうどん |
所在地 | 仲多度郡多度津町西浜11-18 |
電話番号 | 0877-85-5301 |
営業時間 | 10:00~15:00 ※麺がなくなり次第終了 |
休業日 | 月曜日 |
駐車場 | あり |