3年に一度瀬戸内国際芸術祭が行われ、アート県として力を入れている香川県。
確かに公園などに行けば著名な作家の彫刻やアート作品が多くあり、県内には先進的な美術館も点在しています。ただ、街全体を見てアートが浸透しているかというと、いささか心もとない。高尚な「美術」もいいけど、若者たちのもっと自由で奇抜な発想が受け入れられる街になればいいなと個人的には思います。
と、いきなり何様発言をしてしまいましたが、そう言いつつ実は県内各所でいろんな人たちがアートを広めようとさまざまな活動をされている事もプレスリリースなどで目にします。今回は、海外ではアートの分野でも知られている高松市の美容室「ASAKURA」さんで、国内のアーティストを招いてのライブドローイングが行われるというのでお邪魔してきました。
ハードボイルドとストリートカルチャーを融合した力強さを感じるアート
今回お邪魔したのは高松市新北町の海沿いにある美容室「ASAKURA」さん。
社長の朝倉博美さんは、80年代後半に美容師の技術やセンスを競う世界大会で4年連続優勝するという快挙を成し遂げ、美容にアートを取り入れた業界の異端児として知られる世界トップレベルの美容師。
その志を受けた長男の朝倉禅さんも美容の道に進み、さらに海外に目を向けるように。中国内にてヘアサロン事業を中心に、ヘア教育事業、ヘアメイク・ファッションショーなどのイベントプロデュースも行い、アジアを中心に活躍されています。美容系コンテストで各賞受賞のほか、多くのメディアにも出演、2009年にはNEWSWEEK誌の「世界が尊敬する100人の日本人」に選出されたそうです。
勉強不足で、そんな著名な美容師さんが高松にいること自体驚いたのですが、同時に「なぜ世界トップレベルの美容師さんがアートのライブドローイングを開催されるのか?」という素朴な疑問が。それをお聞きすると、むしろ朝倉禅さんは美容の分野でもそのアート性の方に力を入れており、2021年にはアートギャラリーも設立されたほどだといいます。今回はそんな流れの中での開催だったんですね。
「ASAKURA」さんの店内にお邪魔すると、開放感のある明るい店内から見える瀬戸内海の景色が素晴らしい!
こんな開放的な広いスペースでのライブドローイングなので、さまざまなインスピレーションも湧き上がると思います。お店にお邪魔した時にはもうすでに作品もかなり仕上がっている様子でした。
今回作品作りを披露されたのは、前田純(まえだ あつし)さんとイノウエさん。
前田さんはストリートカルチャーに現代的ハードボイルドを融合させた独自スタイルで注目されるアーティスト。2022、23年には東京で個展を開催、台湾最大のアートフェアでは1000人近くの人気アーティストの中から公式パンフレットに作品が掲載される2名に抜擢されるなど大きく注目を集めているそう。
イノウエさんは、1998年からグラフィックデザイナーやイラストレーターとして活動され、Mr.children のベストアルバムwebデザインなどを担当。2020年より作家として作品制作を開始、日本のみならず台湾、香港、フランスなど活動の場を世界に広げているそうです。
今回、前田さんが自身初となる約3.5m×1mの巨大な作品制作に取り組まれるそうですが、下書きなくフリーハンドでスラスラと描かれることに驚きます。実は僕も高校卒業するまで絵が好きで何度か賞もいただいたのですが、普段描いているキャンパスの大きさからこれだけ変わるとまず構図に悩みます。描いている時は寄りすぎてパーツしか目に入らないので、頭の中で絵の全体像を俯瞰したイメージを持っておかないと多分バランス良く描けないと思うんですよね。そこがまずすごい!
後でお話をお聞きしたら、「完成した作品ももちろん見てもらいたいですが、やっぱり一番見てもらいたいのが制作過程のライブ感です。だから下書きはせず一気に描きます。どちらかというとスポーツしている感覚ですね。」ということでした。
この線の力強さもとっても好きです。輪郭ははっきりと、それによって強調されているキャラクターの表情に何かグイグイと伝わってくるものがあります。
今回高松は初めてという前田さん。直接高松をモチーフとしたものを作品に盛り込んでいるわけではないですが、肌で感じる空気感にインスピレーションを与えられているそうで、やはり高松で描く意味はあるそうです。
作品を通じて何か伝えたいことはありますかとお聞きすると「強さですね」とひと言。あまりこと細かく話されないのは作品を見る人それぞれの感性で何か感じてほしいと思う心の現れでしょうか。ぜひ「強さ」をキーワードにして、皆さんなりに作品をご覧になってください。
最後に社長の朝倉博美さんに今回ライブドローイングを開催された狙いをお聞きすると、「当店は美容室ですが、意外と男性やお子さんのご利用が多いのです。小さなお子さんが作品にふれることで、アートの素晴らしさを感じていただき、なにかしら将来に良い影響が与えられるといいですね。」と話されました。
また、今回のライブドローイングをプロデュースされた朝倉禅さんは「商品だけでなくアートやコンテンツなどが日本国内で完結(できる)してしまってなかなか海外まで広まることがない。若い国内のアーティストがアジアを中心に海外にもっと活躍の場が広がるように、また海外の経験がさらに国内のアートに反映できるようにこれからも取り組んでいきたいです。今回のライブドローイングがそのきっかけになれば。」と熱く語っていただきました。
ライブドローイングで制作された作品は店内に展示されるそうです。カットやパーマのついでにぜひご覧になってくださいね!
※インタビューはいろいろお話された内容を短くまとめています。テープ起こしではありませんので多少ニュアンスが違っていたりするかもしれません。ご了承ください。
店名 | ASAKURA SHINKITA |
所在地 | 高松市新北町29-15 |
電話番号 | 087-833-5633 |
営業時間 | 平日 9:30~18:30 土日 9:00~18:00 |
休業日 | 年中無休(1/1、1/2のみ店休) |
駐車場 | あり |