人気企画の5回目は、ブーム再来の兆しが見えるアマチュア天体観測の分野で、中古天体望遠鏡のマッチングサイトを準備中の白川博樹さんにインタビューしました。
高松市にあるコワーキングスペース「Setouchi-i-Bace」さんを舞台にして、そこに集まる面白いフリーランスの方を中心にインタビューするこのシリーズ。
今回は、香川県での事業展開を目指す起業家を対象にしたビジネスプランコンテスト「瀬戸内チャレンジャーアワード2022」でグランプリを獲得したというビジネスモデルについていろいろお聞きしたので、ぜひご覧ください!
きっかけは学生の頃に体験したトラウマだった。
第一次宇宙ブームが始まったのは、1969年にアポロ11号が月面着陸し、全世界がフィーバーしてからと言われます。
このブームは1986年のハレー彗星最接近まで続き、天体望遠鏡の販売額も右肩上がりで推移したそうです。子供のころ、胸を高鳴らせながら望遠鏡をのぞき込んだ思い出のある読者の皆さんも多いのではないでしょうか?
その後ブームも去り、一旦は望遠鏡販売額も減少したのですが、ここ数年また増加傾向にあると言います。いろんな要因があると思いますが、ひとつは定年を迎えた団塊世代が「昔ほしかった天体望遠鏡」にあらためて興味を示し、子や孫にも波及している事もあげられているそうです。
そんな中、天体観測マニアである自身の経験を活かし、中古天体望遠鏡のマッチングサイトを準備されている白川博樹さんに、そのビジネスモデルを解説いただきました。
※白川博樹さん(写真左)と、Setouchi-i-Baseコーディネーターの夛田さん(右)
ーー今日はよろしくお願いします。まずは白川さんの自己紹介も兼ねて、中古天体望遠鏡マッチングサイトを始めようと思われたきっかけをお聞かせいただけますか?
白川さん「元々は小さいころから天体に興味があったのですが、中学生になってようやく小遣いを貯め念願の天体望遠鏡を購入しました。自分自身ではしっかり調べて良いものを買ったつもりで満足していたのですが、高校で天体部に入ったところ、自慢の望遠鏡が友人のものに比べひどく劣るのを感じました。これはショックでしたね。」
それほど価格帯も変わらない天体望遠鏡が、友人のものと比べると星の見え方が明らかに違う。自慢の望遠鏡だったものが急に色あせて見え、以来それがトラウマになってしまったそうです。
白川さん「その後、社会人となり一旦は星の世界からは離れていたのですが、子供が小学生になったころ『子供と一緒に星でも見ようか…』と、仕舞ってあった天体望遠鏡を引っ張り出したところ、高校生のころのトラウマを思い出したんですね。当時、インターネットのオークションが盛んになり始めた時期で情報も集めやすくなったこともあって、以来、天体望遠鏡の調査、収集がライフワークになりました。」
ーーあらためて天体望遠鏡にふれてみて、懐かしさもあったんでしょうね。
白川さん「オークションサイトなどを見ていると、昔は手が届かなかった憧れの望遠鏡が安く出ていたり、同じ金額でも学生の頃では買えなかったものが今なら買えるということもあって、夢中になりましたね。先ほどトラウマと言いましたが、逆に見えない望遠鏡の方が懐かしくて愛着がわくようなこともありましたね(笑)」
ーーその「見えない望遠鏡」というのがよく分からないのですが、例えば僕も子供のころ実は天体望遠鏡が家にあって、辛うじて木星の環が見えるかな…という感じだったのですが、これは白川さんの基準だとどうですか?
白川さん「それは十分『見える望遠鏡』です(笑)。特に反射望遠鏡という種類のものには粗悪品も多かったので、私が持っていたものはもっと出鱈目でしたよ。昔は雑誌ぐらいしか情報源がなかったので、ハズレを引くことも多かったのです。」
それからテクニカルな話になってついていけなくなったのですが、熱っぽく語る白川さんからは本当に望遠鏡が好きなんだな… ということが伝わってきました。
そうこうするうちに収集した天体望遠鏡が自宅の倉庫に入りきれなくなり、せっかくのコレクションなんだから多くの人に見てもらいたいという欲求が。収集していく過程で知り合った愛好家の方に声をかけていただいたこともあって、さぬき市にある天体望遠鏡博物館の開館に携わってしまったという実は激レアさんでもあるのです。
マニア目線で運営する中古天体望遠鏡のマッチングサイト
ーー博物館開館というだけでもすごいと思いますが、さらにマッチングサイトを作ろうと思われた理由は何でしょう?
白川さん「多くの皆さまのご尽力で博物館はできましたが、一方で天体望遠鏡は実際に使ってもらってこそ意味があるとも思っています。ご家庭で死蔵している望遠鏡や使わなくなった望遠鏡を、また違った愛好家のもとで使ってもらえる仕組みを作りたいと思いました。」
ーー市場的な観点からお聞きしたいのですが、天体観測をされる愛好家のすそ野と言いますか、もっと言えば天体望遠鏡の需要という点で事業として成立する規模なのか? そのあたりのイメージはいかがでしょうか?
白川さん「第一次宇宙ブームというのは世界的なブームでして、日本においても高度経済成長と重なって日本の望遠鏡が世界中に輸出された時期でもあるんですね。その時国内でもブームに乗った世代が、ここへ来て再熱しているという空気は感じますね。」
ーーある程度需要は見込めるという事ですね。ただ、大手のオークションサイトやリサイクルショップなど既存のものも多いと思いますが、差別化という点ではいかがでしょうか?
白川さん「第一次宇宙ブームの世代は年配の方が多く、ご家庭で死蔵されている望遠鏡は膨大な数になると思います。仮に処分するにしてもネットオークションに出すより近所のリサイクルショップへという流れになるのですが、専門家でないリサイクルショップでは本当にその望遠鏡の良さや技術的なものまで理解できないので、買い取りにしても売るにしても勿体ない状態になっていると感じます。」
専門家でないリサイクルショップでは、例えば部品の欠品があっても分からない、動作確認も満足にできないから良品かどうかも見た目で判断するしかない。リサイクルショップがその後ネットオークションで販売するケースもありますが、知識のある愛好家なら判断できても、初心者にはハードルが高いという現状があるそうです。
リサイクルショップが悪いという話ではなく、きちんと流通させる仕組みが整っていないことにもどかしさを感じるそうです。
白川さん「きちんとした知識を持っている人が販売し、購入者はアタリもハズレも納得したうえで購入する。愛好家たちのコミュニティーが存在するマッチングサイトを作りたいと思っています。」
ーーその熱い思いが認められて「瀬戸内チャレンジャーアワード2022」でのグランプリだと思いますが、ビジネスプランとして形にするのにはご苦労もあったと思います。Setouchi-i-Baseさんを利用されているのはそのあたりに理由がありそうですね。コーディネーターの伊藤さん、いかがでしょうか?
※Setouchi-i-Baseコーディネーターの伊藤さん(左)
伊藤さん「白川さんとの出会いは、去年7月からSetouchi-i-Baseで行われた『香川コーディングブートキャンプ』という、主にアプリを開発するワークショップに参加されたのがきっかけです。その時からすでに白川さんの中で明確なビジョンがありましたので、我々としては具体的にどう形にするのかという点に集中してお手伝いさせていただきました。アプリ開発を通じてプログラミングを学んでいただいたり、アントレシップの勉強会に参加していただいたりしながら、さらにビジネスプランとして数値的にも整合性のあるものにブラッシュアップしていきました。」
ーーそうして臨んだ「瀬戸内チャレンジャーアワード2022」だったわけですが、審査員をはじめ、みなさんの反応はいかがでしたか?
伊藤さん「全審査員からの評価が高かったと聞いています。細かい評価内容までは公開していませんが、審査員からは実現性の高さと、天体望遠鏡に限らず”世界中の愛好家”をターゲットにできるビジネスとしてのすそ野の広さ、などを評価する声がありました。」
ーーグランプリを獲得してかなり自信になったと思いますが、実際にビジネスとして稼働させるための準備はどの程度かかりそうですか?
白川さん「今は構想をwebにどう落とし込んでいくかというところが課題でして、あれこれ盛り込みすぎると技術面や費用面で大変なので試行錯誤しています。また、個人レベルで趣味的に行っていた愛好家のコミュニティーや望遠鏡のデーターベースなど既存のものをどう反映させるかという課題もあってなかなか進捗が遅くなっているのですが、できるだけ早くオープンしたいですね。」
ーー僕も本当に楽しみにしています。最後に愛好家としてお聞きしたいのですが、初めて天体望遠鏡を手にした方におすすめするとしたらどの天体ですか?
白川さん「それはもう月ですね! 見つけやすいし、肉眼で見る月とはまた別の表情を見せてくれますよ。おすすめです!(笑)」
確かに僕も子供のころ天体望遠鏡で初めて月を見た時、その神秘的な姿に感動したのを覚えています。それと、初めて土星の環を見た時は、ちょっと望遠鏡の扱いが上手になった気がして別の感動がありましたね。
そんなことをあれこれ思い出していると、僕もまた天体望遠鏡が欲しくなりました。白川さん、早くサイトを立ち上げてください!(笑)
おしまい。